
こんにちは。行政書士の落合です。
「遺言書なんて、お金持ちや高齢者の話でしょう?」
「自分にはまだ早いし、縁起でもない」
もしあなたがそう思っているなら、少しだけ立ち止まって考えてみませんか。遺言書は、決して特別な人だけのものではありません。むしろ、ごく普通の生活を送る私たちにとって、遺される大切な家族への「最後のラブレター」であり、無用なトラブルを防ぐための「道しるべ」となる、非常に重要なツールなのです。
今日はそんな、遺言書について触れてみます。
目次
1|なぜ遺言書が必要なのか。~相続の現実~
人が亡くなると、その人の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)は、法律で定められた相続人(法定相続人)に引き継がれます。これを「相続」といいます。法定相続人が一人であれば話は単純かもしれませんが、多くの場合、配偶者や子供、親、兄弟姉妹など、複数の相続人が存在します。
遺言書がない場合、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、誰がどの財産をどれだけ相続するかを話し合って決めなければなりません。これが、時として深刻なトラブル、いわゆる「争続」の火種となるのです。
「うちは家族仲が良いから大丈夫」と思っていても、いざ相続となると、お金が絡む問題は感情的な対立を生みやすく、これまで良好だった関係に亀裂が入ってしまうケースは後を絶ちません。「不動産をどう分けるか」「親の介護を主に担ってきた自分にもっと配慮してほしい」「生前、他の兄弟は援助を受けていたはずだ」…様々な主張がぶつかり合い、話し合いは平行線をたどり、調停や裁判にまで発展することも珍しくありません。
また、相続手続き自体も煩雑です。戸籍謄本を収集して相続人を確定し、財産を調査・評価し、遺産分割協議書を作成し、不動産の名義変更や預貯金の解約手続きなどを行う必要があります。
そんなときに遺言書があれば、これらの手続きの多くをスムーズに進めることができるのです。
2|遺言書とは? ~あなたの想いを形にする方法~
➀ 遺言書の種類
② どんなひとが遺すべきか
冒頭でも触れたように、遺言書は特定の人だけのものではありません。以下のようなケースに当てはまる方は、特に遺言書の作成を検討することをお勧めします。
- 相続人が複数いる方: 遺産分割協議でのトラブルを未然に防ぐため。
- 特定の相続人に多く(または少なく)財産を遺したい方: 法定相続分と異なる配分を指定するため。
- 相続人以外の人に財産を遺したい方: 内縁の配偶者、子の配偶者、友人、恩人、お世話になった団体などへ遺贈するため。
- 子供がいないご夫婦: 配偶者だけでなく、親や兄弟姉妹も相続人になる可能性があるため、全財産を配偶者に遺したい場合など。
- 再婚されている方(連れ子がいる場合など): 前配偶者との子、現在の配偶者、現在の配偶者との子など、相続関係が複雑になるため。
- 個人事業主や会社経営者の方: 事業用資産や自社株式を後継者にスムーズに承継させるため。
- 障がいをお持ちのお子様や、将来が心配なお子様がいる方: その子の生活保障のために、他の相続人より多く財産を残したり、信頼できる人に財産の管理を託したりするため。
- 行方不明の相続人がいる方。
- 相続人同士の仲が良くない方。
これらはあくまで一例です。ご自身の家族構成や財産状況、そして何より「誰にどのように財産を遺したいか」という想いを整理し、必要性を判断することが大切です。
また、上記の例の方以外にも、例えば人生の節目を迎えてご家族が増えた場合でも、いざというときの備えとして遺言書を遺そうかなと思われる方もいらっしゃいます。一概に、年齢が高い低いの問題でもないので、思い立った時がいわゆる遺言書を含めた終活のタイミングなのかもしれませんね。
③ 遺言書に書けること
遺言書には、主に以下のような内容を記載できます。
- 財産の承継に関すること:
- 預貯金、不動産、株式、自動車などの具体的な分け方の指定(「妻に自宅不動産とA銀行の預金全てを相続させる」「長男に事業用資産を相続させる」など)。
- 遺贈(「お世話になった〇〇さんに現金〇〇万円を遺贈する」「〇〇NPO法人に寄付する」など)。
- 生命保険金の受取人変更(遺言による変更が認められる場合)。
- 身分に関すること:
- 子の認知(婚姻関係にない男女間に生まれた子を自分の子と法的に認める)。
- 未成年後見人の指定(親権者がいなくなる場合に備え、子の世話や財産管理をする人を指定)。
- 相続に関すること:
- 相続分の指定(法定相続分と異なる割合を指定)。
- 遺産分割方法の指定(現物分割、換価分割、代償分割などの方法を指定)。
- 遺産分割の禁止(最長5年間)。
- 遺言執行者の指定(遺言の内容を実現するための手続きを行う人を指定)。
- 付言事項:
- 上記のような法的な効力はありませんが、遺言者の想いを伝える大切な部分です。
- 家族への感謝の言葉、遺産分割でそのように分けた理由、葬儀や納骨に関する希望などを記すことができます。これが、残された家族の心の支えとなり、円満な相続の助けとなることも少なくありません。
3|遺言書作成の注意点
有効な遺言書を作成し、ご自身の想いを確実に実現するためには、いくつかの注意点があります。
- 方式の遵守: 特に自筆証書遺言は、日付・氏名・押印・全文自筆(財産目録を除く)といった要件を一つでも欠くと無効になります。細心の注意が必要です。
- 財産の特定: どの財産を誰に渡すのか、明確に記載しましょう。不動産なら登記簿謄本通りに、預貯金なら銀行名・支店名・口座番号まで具体的に記します。
- 遺留分への配慮: 法定相続人には、最低限保障される相続分(遺留分)があります。遺留分を侵害する遺言も法的には有効ですが、遺留分を侵害された相続人から「遺留分侵害額請求」をされる可能性があり、トラブルの原因となります。可能であれば、遺留分に配慮した内容にするか、なぜそのような分け方にしたのか理由を付言事項で丁寧に説明することが望ましいでしょう。
- 定期的な見直し: 家族構成、財産状況、人間関係は変化します。一度作成した遺言書も、状況の変化に合わせて定期的に見直し、必要であれば書き直しましょう。
- 専門家への相談: 遺言書の作成、特に内容が複雑な場合や確実性を期したい場合は、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に相談することをお勧めします。公正証書遺言を作成する場合は、公証役場での手続きが必要になります。
4|まとめ ~想いを未来へつなぐために~
遺言書の作成は、決して「死」を意識したネガティブな行為ではありません。むしろ、ご自身の人生を振り返り、大切な人への感謝や愛情を再確認し、その想いを未来へつなぐための、前向きで責任ある行動です。
「まだ元気だから」「財産なんてたいしてないから」と先延ばしにせず、判断能力がしっかりしているうちに準備を始めることが何よりも大切です。遺言書があることで、残された家族はあなたの明確な意思を知ることができ、無用な争いを避け、安心して故人を偲び、前を向いて歩み出すことができます。
まずは、ご自身の家族や財産について考え、どのような想いを伝えたいかを整理してみることから始めてみませんか。そして、必要であれば専門家の力も借りながら、あなただけの「最後のラブレター」を作成し、大切な家族へ安心という最高の贈り物を遺しましょう。それは、あなた自身にとっても、きっと心の平穏につながるはずです。
遺言書の作成等でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。