こんにちは。行政書士の落合です。
前回は、将来への備えを盤石にするための「5つの設計図」の全体像(コラム参照)についてお話ししました。今回からはその設計図を一つずつ紐解いていきましょう。
第2回となる今回のテーマは、「見守り契約」です。
「契約」という言葉を聞くと、何か大層な手続きのように感じるかもしれません。しかし、見守り契約の本質を一言で表すなら、それは「専門家とゆるやかに、かつ確実に『繋がる』こと」にあります。 まだお元気で、身の回りのこともご自身でこなせる今だからこそ、なぜこの「繋がり」が必要なのか。
その理由を今日は詳しく解説していきます。
目次
1| 任意後見の「前」にある大切な時間
「将来、認知症になったら心配だから任意後見を考えている」 こうしたご相談をいただく機会が増えています。ご自身の意志で、信頼できる人に将来を託す「任意後見制度」は、まさに自分らしい人生を最期まで貫くための優れた仕組みです。
しかし、ここで一つ重要な盲点があります。それは、「任意後見契約は、判断能力が低下した後でなければ発動しない」という点です。
では、契約を済ませてから実際に判断能力が低下するまでの、いわば「元気な期間」はどうなるのでしょうか。あるいは、「最近、少し物忘れが増えたかも?」と自覚し始めた、もっとも不安な時期を誰が支えるのでしょうか。
この空白の期間を埋め、任意後見という大きな安心へと繋ぐ「架け橋」となるのが、今回ご紹介する「見守り契約」です。
2| 見守り契約の仕組みとは?
3| 【重要】見守り契約が果たす3つの大きな役割
なぜ、任意後見とセットで見守り契約を締結しておく必要があるのか。それには、単なる安否確認を超えた「3つの重要な役割」があるからです。
3-1 任意後見発動の「ベストタイミング」を逃さない
任意後見をスタートさせるには、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てる必要があります。しかし、認知症の症状はグラデーションのように少しずつ進むことが多く、ご本人や離れて暮らすご家族では、いつがその「発動すべきタイミング」なのかを正確に判断するのは非常に困難です。
例えば・・
「最近、同じ話を繰り返すようになった」
「郵便物の整理が少し苦手になってきたようだ」
「以前よりも外出の機会が減っているのではないか」
見守り契約を通じて定期的に交流していれば、こうした日常の些細な変化は専門家がいち早く変化を察知し、適切なタイミングで手続きを提案できます。「まだ大丈夫」と先延ばしにしている間に、大切な資産が適切に管理できなくなったり、生活が破綻したりするリスクを最小限に抑えることができるのです。
3-2 悪質商法や詐欺から、資産と生活を守る
独居高齢者の方がもっとも狙われやすいのが、自宅への訪問販売や電話詐欺です。判断能力が十分なうちでも、孤独感や少しの不安につけ込まれて不要なリフォーム契約を結ばされてしまうケースは後を絶ちません。
「定期的に行政書士が家に来る」「何かあればすぐに相談できる相手がいる」という事実は、悪質な業者に対する大きな抑止力となります。また、面談時に不審な契約書や領収書がないかをチェックすることで、被害を未然に防ぐ、あるいは早期に発見することが可能になります。
3-3 「顔の見える関係」が、将来の安心を担保する
将来、もし認知症になったとき、自分の通帳や実印を誰かに預けなければなりません。その相手が、契約書の上だけで繋がっている「名前しか知らない人」だとしたら、これほど不安なことはないでしょう。
見守り契約の期間は、いわば「信頼関係を育む時間」です。元気なうちから趣味の話や家族のこと、これまでの人生観などを共有しておくことで、実際に支援が必要になったとき、受任者(専門家)は「この方なら、きっとこう判断するだろう」という、ご本人の意志に寄り添った柔軟なサポートができるようになります。
4| まとめ ~孤独を「孤立」にさせない「繋がり」~
現代社会において、一人暮らしの高齢者が増える中、懸念されるのは「孤立」です。 「誰にも迷惑をかけたくない」 「自分でできるうちは頑張りたい」 その自立心は尊いものですが、いざ困りごとが起きたときに「誰に相談していいかわからない」という状態は、非常に大きなリスクを孕んでいます。
見守り契約は、何か問題が起きてから探す相手ではなく、何もない時から「知っている相手」を作っておく契約です。行政書士などの専門家と定期的に繋がっていることで、悪質な訪問販売に困ったときや、体調に不安を感じたときに、「とりあえずあの先生に電話してみよう」と思える場所がある。その心のゆとりが、生活の質を支えてくれます。
~むすびに~
見守り契約は、決して大げさなものではありません。それは、あなたがこれまで築いてきた自由な生活を、これからも安心して続けていくための「お守り」のようなものです。
専門家と繋がっているという安心感は、ご本人だけでなく、遠くで見守るご家族にとってもかけがえのないものになります。まずは世間話をする相手を作るような、そんな軽やかな気持ちで「繋がり」を持っておくことが、将来の自分を助ける第一歩となるはずです。
しかし、時が経ち、もし「日常生活の中でのちょっとした手続きが自分では難しくなってきた」と感じるようになったらどうすればよいでしょうか。
例えば、銀行での入出金や公共料金の支払い、あるいは役所から届く書類の管理など、判断能力はしっかりしていても、体力的な衰えによって「手足」となって動いてくれる誰かが必要になる時期が訪れるかもしれません。
次回、第3回は、そんな生活の不便を具体的にサポートする「財産管理等委任契約 〜手足となって支える実務の形〜」について、詳しくお話ししていきます。
執筆者
行政書士おちあい事務所
行政書士 落合真美
遺言、任意後見、死後事務委任などの生前対策や相続手続き、各種許可申請などでサポートを提供。人に、事業に、寄り添うことを大切にしています。