こんにちは。行政書士の落合です。
日常生活やビジネスの中で、「著作権(ちょさくけん)」という言葉を耳にします。特にSNSが普及し、誰もが簡単に文章、写真、イラスト、動画を発信・利用できるようになった現代において、著作権は一部のクリエイターや大企業だけの問題ではなくなりました。
個人事業主や中小企業の経営者、あるいは日々の業務でウェブサイトの運営に携わる方々にとっても、著作権の正しい知識は「自社のコンテンツを守るため」、そして「他者の権利を侵害してトラブルになるのを防ぐため」に必須の教養となっています。
私はかつて特許事務所にて知的財産に携わっておりました。現在は「著作権相談員」として登録されている行政書士でもあります。今回はその視点から、意外と知られていない著作権のユニークな仕組みや、何が「著作物」として守られるのかという基本の線引き、そして万が一のトラブルを未然に防ぐための「予防法務」としての仕組みについて解説します。
目次
3| ビジネスや日常で知っておきたい「著作権の基本ルール」
事例①:外注したデザインの権利は誰のもの?
事例②:インターネット上の画像や文章の取り扱い
4| 自動で発生するのに、なぜ「文化庁への著作権登録」があるの?
1| 特許とはどう違う?「著作権」のユニークな仕組み
知的財産権(知財)と一言で言っても、そこには様々な権利が含まれます。私が以前身を置いていた特許事務所で扱う「特許権」や「実用新案権」「商標権」「意匠権」といった権利は、総称して「産業財産権」と呼ばれます。
これら産業財産権の最大の特徴は、「特許庁に出願(申請)し、厳しい審査をパスして、登録されて初めて権利が発生する」という点にあります。これを「方式主義(ほうししゅぎ)」と呼びます。お金と時間をかけて手続きを踏まなければ、どれほど素晴らしい発明やロゴマークであっても、法律上の強い権利として守ってもらうことはできません。
一方で、今回のテーマである「著作権」は、これらとは全く異なる180度違うユニークな仕組みを持っています。
申請がいらない「無方式主義」
著作権は、作品が作られたその瞬間に、何の手続きも必要とせず、自動的に発生します。 これを「無方式主義(むほうししゅぎ)」と呼びます。
例えば、あなたが今朝ブログに書いたオリジナルの文章や、スマートフォンで撮影した何気ない風景写真であっても、それが作り出された瞬間に法律によって著作権が発生し、保護の対象になります。国への申請も、登録費用の支払いも、あるいは「©(コピーライト)」といったマークの記載すら、権利を発生させるための必須条件ではありません。
この「作った瞬間に誰もが等しく権利を持てる」という手軽さこそが著作権のメリットですが、同時に「いつ、誰が、何を作ったのか」が客観的に証明しにくいという、無方式主義ならではの難しさ(デメリット)も生み出しています。この点については、後ほど詳しく解決策をお伝えします。
2| 何が「著作物」になって、何がならないのか?
著作権によって守られる作品のことを、法律上「著作物(ちょさくぶつ)」と呼びます。では、私たちが日々生み出しているものや、目にするデータのうち、どこからどこまでが著作物になるのでしょうか。
著作権法では、著作物を以下のように定義しています。
「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法第2条1項1号)」
少し堅苦しい表現ですが、ここには著作物として認められるための重要な「4つの要素」が隠されています。この線引きを理解しておくことが、著作権トラブルを防ぐ第一歩です。
著作物として認められる要素
- 「思想又は感情」が盛り込まれていること
単なる事実の羅列や、客観的なデータそのものは著作物になりません。例えば、昨日の天気予報の数値(気温や降水確率)や、ただの電車の時刻表は、誰が書いても同じデータになるため、著作物にはあたりません。 - 「創作的」であること
これは「誰も思いつかないような天才的な大傑作であること」という意味ではありません。作った人の「個性」や「工夫」が少しでも表れていれば、十分に創作的であるとみなされます。子供が描いた絵であっても、そこに個性が表現されていれば立派な著作物です。逆に、誰が書いても全く同じ表現になるような短い定型文などは、創作的とは言えません。 - 「表現したもの」であること
ここが非常に重要なポイントです。著作権法が守るのは、あくまで外に表された「表現(文章、絵、音楽など)」そのものです。頭の中にある「アイデア」や「ノウハウ」「技術のコンセプト」は保護されません。アイデアそのものを守りたい場合は、特許権などの別の知的財産権を検討する必要があります。 - 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」であること
小説、ビジネス書、論文、絵画、写真、楽曲などはもちろん、コンピュータの「プログラム」も現代の著作権法では明確に著作物として保護される対象となっています。
このように、著作権は「アイデアではなく、個性が表れた表現を守るもの」という基本を、まずは押さえておきましょう。
3| ビジネスや日常で知っておきたい「著作権の基本ルール」
著作権の基本が分かったところで、実際のビジネスや日常生活において、私たちが特につまずきやすいシーンを2つピックアップしてみます。
事例①:外注したデザインの権利は誰のもの?
ホームページの制作や、ロゴマーク、イラストの作成を外部のデザイナー(クリエイター)に「発注」したケース。
高額な費用を支払い、自社の要望を伝えて作ってもらった完成品ですから、「当然、出来上がったロゴやホームページの著作権は、お金を払った人(会社)のものになるだろう」と考えがちです。
しかし、前述の通り著作権は「作った瞬間(表現した瞬間)」に、作った本人(デザイナー)に自動的に発生します。
そのため、たとえこちらがお金を支払って発注したものであっても、原則として著作権は作ったデザイナーの元に残ります。発注側が手に入れたのは、あくまで「その完成品を利用する権利(利用許諾)」であることが多いのです。
後々の不要な誤解やトラブルを防ぐためにも、成果物の権利がどこに帰属するのか、二次利用(他の媒体への転用など)は可能なのかについては、あらかじめ当事者間でしっかりと書面を交わして確認・契約しておくことが、ビジネスの現場では極めて大切になります。
事例②:インターネット上の画像や文章の取り扱い
「ネットで検索して見つけた画像だから、自社のブログに載せてもいいだろう」
「個人のSNSアカウントだから、好きなアニメのキャラクターをアイコンにしても大丈夫」
という認識も、厳密には著作権法上のリスクをはらんでいます。
インターネット上にあるものも、誰かが創作的に表現した著作物があふれています。それらを自分のウェブサイトやSNSに無断でコピーして掲載する行為(無断転載)は、原則として著作権(複製権や公衆送信権)の侵害にあたります。
「出所を書いておけば転載してもいい」というのも、よくある誤解の一つです。法律上、他人の著作物を無断で使える「引用」にあたるためには、要件を満たす必要があります。他者の作品を利用させていただく際は、商用利用が認められているフリー素材サイトを正しく利用するか、権利者の許可を事前に得ることが鉄則です。
4| 自動で発生するのに、なぜ「文化庁への著作権登録」があるの?
ここで一つの疑問が浮かびます。
「著作権は作った瞬間に自動的に発生する(無方式主義)のに、なぜ『文化庁への著作権登録手続き』というものがあるのだろう?」ということです。
確かに、登録をしなくても著作権は存在しています。しかし、手続きが不要であるからこそ、いざ「自分の作品が他人に真似された!」というトラブルが起きたとき、あるいは「この作品の権利を他社に譲渡したい」というビジネスの話が出たときに、以下のような問題に直面します。
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「あなたがそれを、その日に作ったという証拠はありますか?」
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「本当にあなたが本当の権利者(著作者)ですか?」
無方式主義のもとでは、これらを自分で証明しなければなりません。そこで、国(文化庁)に一定の事項を登録しておくことで、法律上の強力な事実上の証明力を持たせ、身を守ることができる仕組みが「著作権登録制度」です。
① 創作年月日の登録(プログラム著作物)
プログラムが「完成した日」を公的に証明するための登録です。
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特徴: 世の中に出している(公表)・出していない(未公表)に関わらず登録できます。
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期限: 「完成(創作)から6ヶ月以内」に申請する必要があります。
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メリット: 万が一、「自社のプログラムを真似された」というトラブルが起きたとき、登録した日付にそのプログラムが確実に存在していたことが法律上推定されるため、紛争を有利に進める大きな武器になります。
② 第一発行(公表)年月日の登録
その作品を「初めて世の中にリリース(販売やネット公開)した日」を証明するための登録です。
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特徴: すでに世に出ている(公表・販売されている)作品が対象です。こちらは古いプログラムであっても、現在販売や公開がされていれば登録が可能です。
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メリット: 「いつからこの製品を世に出しているか」が公的に証明されるため、後発の類似品とのトラブル対策に役立ちます。
③ 著作権、著作隣接権等の登録
著作権の「譲渡」など、権利が他人に移ったことを記録する登録です。
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特徴: 著作権や著作隣接権(実演家や放送事業者等の権利)の移転の登録が可能です。
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メリット: 不動産の「登記」のような役割を果たします。この登録をしておくことで、万が一、元の所有者が別の人にも二重で権利を売ってしまったような場合に、「自分が正当な権利者だ」と第三者に対して法的に主張できるようになります(第三者対抗要件)。
④ 実名の登録
普段、ペンネームや会社のキャラクター名、あるいは匿名で作品を世に出しているクリエイターが、本名(実名)を国に紐づけるための登録です。
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特徴: 匿名のまま活動を続けつつ、本名を登録しておくことができます。
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メリット: 実名が登録されることで、その作品の本当の作者であると推定されます。また、作者が個人の場合、著作権の保護期間が「死後70年間」に延長されるという大きなメリットがあります。
5| むすび~大切な知的財産とビジネスを守るために
著作権は、私たちのクリエイティブな活動や日々のビジネスを優しく守ってくれる法律ですが、目に見えない権利だからこそ、気づかないうちに侵害してしまったり、逆に自分の権利が脅かされたりすることがあります。
トラブルを未然に防ぐ「予防法務」の観点から最も大切なのは、日頃から「これって著作権的に大丈夫かな?」というアンテナを張っておくこと、そして、権利の帰属が曖昧になりそうな場面では、専門家を交えてしっかりとした書面や契約の形でルールを決めておくことです。
「自社が作ったこのプログラムやコンテンツを、文化庁に登録してしっかり証明できるようにしたい」
「新しく始めるビジネスで、他人の著作権を侵害しないか基本的な線引きを確認したい」
そんなときは、ぜひお近くの「著作権相談員」にご相談ください。
当事務所では、知財の専門家である弁護士や弁理士と連携をしておりますので、行政書士の業務を超えるご相談内容については、いつでもお繋ぎが可能です。どうぞ安心してご相談ください。
執筆者
行政書士おちあい事務所
行政書士 落合真美
遺言、任意後見、死後事務委任などの生前対策や相続手続き、各種許可申請などでサポートを提供。人に、事業に、寄り添うことを大切にしています。