
こんにちは。行政書士の落合です。
インターネットが私たちの生活に深く根ざし、オンラインでのショッピングやサービスの利用は、もはや日常の一部となっています。
スマートフォン一つで、いつでもどこでも、世界中の商品やサービスにアクセスできる便利な時代です。しかし、この便利さの裏側には、時に思わぬトラブルが潜んでいることも事実です。
「クリック一つで契約が成立してしまった」
「誤って申し込んでしまったのにキャンセルできない」「表示された内容と違うものが届いた」・・
このようなデジタルならではの契約トラブルから私たち消費者を守るために、2001年(平成13年)4月に施行されたのが「電子消費者契約及び電子承諾通知ファイルに関する民法の特例等に関する法律」、通称「電子消費者契約法」です。
本コラムでは、この電子消費者契約法が、具体的に私たち消費者をどのように保護しているのか、そのポイントと、安心してネット取引を利用するための注意点について、詳しく解説していきます。
目次
(1)「誤クリック」による契約成立の問題
(2)電子的な意思表示の到達時期の問題
(3)契約内容の不明確性
2| 電子消費者契約法の主なポイント:誤クリック対策と意思表示の特例
(1)誤操作による意思表示の取消し
・ 事業者が十分な確認措置を講じている場合
・ 消費者側の故意や重過失
(2)電子承諾通知の到達時期の特例
5| 私たち消費者ができること
~ ネット取引を賢く安全に利用するために~
6| まとめ
~デジタル社会を賢く生きるために~
1| なぜ「電子消費者契約法」が必要だったのか?

インターネットが普及し始めた2000年代初頭、従来の民法だけでは対応しきれない新たな問題が浮上してきました。
(1)「誤クリック」による契約成立の問題
パソコンやスマートフォンの画面上で、うっかり「確定」ボタンや「購入」ボタンを押してしまい、意図しない契約が成立してしまうというトラブルが頻発しました。従来の民法では、一度意思表示がなされれば、原則として契約は有効とみなされるため、消費者は不利な立場に置かれがちでした。
(2)電子的な意思表示の到達時期の問題
メールやウェブサイト上での申し込みなど、電子的な意思表示が「いつ相手に到達したか」が不明確な場合がありました。これにより、契約の成立時期や撤回の可否について争いが生じることがありました。
(3)契約内容の不明確性
ウェブサイト上の表示が分かりにくかったり、重要事項が小さな文字で書かれていたりして、消費者が契約内容を十分に理解しないまま契約してしまうケースがありました。
このようなデジタルならではの特性を踏まえ、消費者保護を強化するために、民法の特例として電子消費者契約法が制定されたのです。
2| 電子消費者契約法の主なポイント
電子消費者契約法の核となるのは、大きく分けて以下の二つのポイントです。
(1)誤操作による意思表示の取り消し
これが、いわゆる「誤クリック救済」の規定です。
「消費者が契約の申込みまたは承諾の意思表示を行う際に、事業者が提供した最終確認画面などが設けられておらず、消費者がその意思表示を誤って行った場合、その意思表示は無効となる」
もう少し分かりやすく説明すると、もし、あなたがネットショッピングで商品をカートに入れ、購入ボタンを押したとします。しかし、その直前に「注文を確定しますか?」といった最終確認画面が表示されず、そのまま決済まで進んでしまったとします。もし、この時にあなたが「購入するつもりはなかった」「数量を間違えた」といった誤操作を理由に主張すれば、その契約の意思表示は「無効」とみなされる可能性がある、ということです。
ポイントは「事業者が最終確認措置を講じていないこと」です。 事業者が、数量や金額、商品の内容などを再確認できる画面(最終確認画面)を設けていなかったり、誤操作を訂正できる機会を提供していなかったりした場合に、この規定が適用される可能性が高まります。
ただし、注意点もあります。
- 事業者が十分な確認措置を講じている場合
例えば、注文確定前に複数回の確認画面や、入力内容の修正機能を提供している場合は、原則として誤操作による取消しは認められません。 - 消費者側の故意や重過失
消費者が意図的に誤操作を装ったり、あまりにも不注意で極めて容易に避けられる誤操作であったりする場合には、この規定の適用が制限される可能性もあります。
この規定は、消費者が冷静に判断する機会を与え、不意の契約成立による不利益を防ぐための強力な盾となります。
(2)電子承諾通知の到達時期の特例
従来の民法では、契約の申込みや承諾の意思表示は、相手方に「到達した時」にその効力を生じるとされています(到達主義)。しかし、電子メールなどでは、送信したものの相手が受信したのか、いつ受信したのかが分かりにくいという問題がありました。
電子消費者契約法では、この点について特例を設けています。
「消費者が電子情報処理組織を利用して契約の申込みまたは承諾の意思表示をした場合、その意思表示は、通常到達すべき時に到達したものとみなされる」
これは、技術的なトラブルなどで電子メールが遅延したり、届かなかったりした場合でも、通常であれば到達すべき時に到達したものとみなすことで、契約の成立時期を明確にし、トラブルを避けることを目的としています。 ただし、これはあくまで「みなし規定」であり、実際に到達していなかったことが証明されれば、その効力は否定されることもあります。
3| 電子消費者契約法が対象とする範囲

4| 特定商取引法や消費者契約法との関連
電子消費者契約法は、他の消費者保護に関する法律と連携して、消費者を守る役割を果たしています。
- 特定商取引法
訪問販売、通信販売、連鎖販売取引など、特定の取引形態について、消費者保護のためのルールを定めています。例えば、通信販売では「クーリング・オフ」制度が適用されない代わりに、「返品特約」の表示義務などがあります。電子消費者契約法は、この特定商取引法が定める「通信販売」にも適用され、消費者の誤操作に対する保護を提供します。 - 消費者契約法
消費者と事業者間の契約全般について、消費者に不利な契約条項を無効にしたり、消費者の誤解や困惑に基づく契約を取り消したりできる規定を定めています。電子消費者契約法は、この消費者契約法の特別法(特定の分野に限定された法律)という位置づけで、電子取引に特化した保護を強化しています。
これらの法律が複合的に作用することで、私たちはより安全にネット取引を利用できるようになっています。
5| 私たち消費者ができること~ネット取引を賢く安全に利用するために~
電子消費者契約法は強力な消費者保護の盾となりますが、私たち自身もトラブルを未然に防ぐための意識と行動が重要です。
- 契約内容の最終確認を徹底する
購入ボタンや申し込みボタンを押す前に、必ず価格、数量、商品の内容、納期、支払い方法、返品・キャンセル条件などを入念に確認しましょう。最終確認画面の表示を安易にスキップしない習慣をつけましょう。 - 利用規約をよく読む
面倒に感じても、サービスの利用規約や販売条件には、重要な情報が記載されています。特に、解約条件、個人情報の取り扱い、トラブル時の対応などについては、目を通しておくべきです。 - 不明点は事前に確認する
少しでも疑問に思う点があれば、申し込み前に事業者へ問い合わせ、明確な回答を得てから契約に進みましょう。 - 注文完了メールなどを保存する
注文後には、必ず注文内容が記載されたメールや、ウェブサイトの注文完了画面をスクリーンショットなどで保存しておきましょう。万が一トラブルになった際の証拠となります。 - 安易な情報提供は避ける
身に覚えのないメールや、怪しいウェブサイトからの誘導には注意し、安易に個人情報やクレジットカード情報を提供しないようにしましょう。 - トラブル発生時の相談先を知る
もし、ネット取引でトラブルに巻き込まれてしまった場合は、一人で抱え込まず、消費者ホットライン(188)、国民生活センター、または地域の消費生活センターに相談しましょう。法的な問題が絡む場合は、行政書士や弁護士といった専門家への相談も有効です。
6| まとめ ~デジタル社会を賢く生きるために~

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電子消費者契約法は、インターネット取引の特性を踏まえ、私たち消費者が安心してデジタルサービスを利用できるよう、重要な役割を担っています。しかし、法律があるからといってすべてが解決するわけではありません。
私たちは、法律の保護を受けつつも、デジタル社会を賢く、安全に生きるためのリテラシーを高めていく必要があります。クリック一つで世界が広がる現代において、そのクリックの重みを理解し、慎重な判断を心がけること。そして、もしもの時には、自分を守るための知識と相談先を知っておくこと。
これらの意識を持つことが、より豊かなデジタルライフを送るための鍵となるでしょう。
電子消費者契約法は、私たちが日々安心してオンライン取引を利用するための「見えない守り手」です。もし、オンラインでの契約に関して「おかしいな」「困ったな」と感じた場合は、この法律の存在を思い出し、一人で抱え込まずに相談機関や、専門家に相談することを検討してみてください。
当事務所でもご相談、契約書のチェックなどお受けしております。内容に応じ、弁護士等のご紹介も随時承っております。

執筆者
行政書士おちあい事務所 行政書士 落合真美
東京都内を中心に、遺言や相続、建設業や産廃業などの許可申請でサポートを提供。人に、会社に、寄り添うことを大切にしています。