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こんにちは。行政書士の落合です。

私たちの生活には、万が一に備える「保険」が欠かせませんが、ご自身の将来の安心についても、同様の「備えの二重構造」が大切な場面もでてきます。

特に、ご自身の財産管理や介護に関する意思を、判断能力が低下した後も尊重してもらうための「任意後見契約」においては、「誰に託すか」という主たる受任者の選定だけでなく、「その受任者に何かあったらどうするか」という予備的受任者の設定が非常に重要になってきます。
これは高齢化が益々進む中で、受任者もまた、必然的に高齢者となる場面が増えてくることも一つの要因です。

せっかく未来の安心のために準備した契約が、わずかな不備や予期せぬ事態で無効になってしまっては、元も子もありません。

今日は、この予備的な受任者を設定することの法的・実務的な重要性について、詳しくご説明してまいります。

皆様の「安心な未来」を設計するヒントとなれば、嬉しく思います。

目次

1| 任意後見契約における「受任者の死亡」という盲点
 1-1.  契約終了事由としての「受任者の死亡」
 1-2.  単一契約での「予備的受任者」の限界

2|「死後」も守るための「複数の任意後見契約」戦略
 2-1. 独立した契約の法的優位性
 
2-2. 契約終了リスクの回避メカニズム
 
2-3. 柔軟な役割分担によるシナジー効果

3| 任意後見受任者に求められる資質と選び方
 
3-1. 受任者に求められる資質
 
3-2. 専門家を受任者候補とするメリット

4| まとめ~契約の終了を見越した戦略的設計を~

 

 

1| 任意後見契約における「受任者の死亡」という盲点

任意後見契約は、民法の「委任契約」の性質を基礎としています。この民法の原則が、任意後見契約に致命的なリスクをもたらします。

 

1-1. 契約終了事由としての「受任者の死亡」
民法第653条(委任の終了事由)には、「委任者又は受任者の死亡」をもって委任契約は終了すると定められています。すなわち、任意後見契約が発効し、任意後見人が任務遂行中に死亡した場合、その時点で契約は終了してしまうのです。

これは、本人が認知症を発症し、もはや新たな契約を締結する判断能力がない状態であっても、例外ではありません。

 

1-2. 単一契約での「予備的受任者」の限界
「主たる受任者が任務に就けなかった場合に備えて、予備的受任者を指定する」という条項が盛り込まれていたりします。しかし、この条項が有効なのは、主に「任務開始前」の事態です。

  • 有効なケース(任務開始前)
    本人の判断能力低下前に、主たる受任者が死亡したため、予備的受任者が監督人選任申立てを行う。

  • 問題となるケース(任務開始後)

    1. 本人の判断能力が低下し、任意後見契約が発効(任意後見監督人が選任)した。

    2. その後、任意後見人(受任者)が任務遂行中に死亡した。

    3. この時点で民法の規定により委任契約自体が終了しているため、予備的受任者に契約上の地位が自動的に引き継がれるわけではありません。

結果として、本人は再び後見人のいない状態に置かれ、法定後見制度に移行せざるを得なくなります。せっかく本人自身の意思で選んだ任意後見人の保護は、その死亡によって途絶えてしまうのです。

 

 

2| 「死後」も守るための「複数の任意後見契約」戦略

この、民法の原理原則に起因する「契約終了リスク」を根本的に回避するため、私が強く推奨するのが、「予備的候補者と、内容の異なる独立した複数の任意後見契約を結ぶ」戦略です。

 

2-1. 独立した契約の法的優位性
主たる受任者(Aさん)との契約と、予備的候補者(Bさん)との契約を、それぞれ別個の公正証書として締結します。

  • 契約A(Aさんとの契約)
    Aさんが主たる任意後見受任者。

  • 契約B(Bさんとの契約)
    Bさんが主たる任意後見受任者。

この状態では、それぞれの契約は法的に独立しています。

 

2-2. 契約終了リスクの回避メカニズム
契約Aが発効し、Aさんが任意後見人として活動中にAさんが亡くなったとします。このとき、契約Aは終了しますが、契約Bは依然として有効な契約として公証役場に存在しています。

  1. 契約Aの終了
    Aさんの死亡により、契約Aは終了。

  2. 契約Bの起動
    本人の親族や利害関係人が、有効な契約Bに基づき、家庭裁判所にBさんを任意後見人とする監督人選任の申立てを行う。

これにより、予備的候補者Bさんが、法定後見の審判を経ることなく、本人が事前に望んだ「任意後見人」としてスムーズに任務を引き継ぐことが可能になります。これは、単一契約では実現できない「契約の永続性」を確保するための画期的な仕組みです。

 

2-3. 柔軟な役割分担によるシナジー効果
複数の契約を結ぶことで、受任者それぞれの分野に応じた役割分担を、契約ごとに明確に設定できます。

 

 

契約 受任者例 委任する事務の範囲例 目的
契約A 家族(長男など) 療養看護、日常の財産管理 日常的なケアと生活費の管理
契約B 専門家(士業) 不動産の売却、遺産分割協議、大規模な資産運用 専門的な財産管理と相続対策

主たる受任者に契約Aを発動させ、万が一の時に契約Bを発動させる、という二段階の備えとなり、受任者への負担を軽減しつつ、最も専門性の高い保護体制を構築できます。

 

 

 

 

 

3| 任意後見受任者に求められる資質と選び方

究極の備えである複数契約戦略を成功させるためには、受任者選びが最も重要です。受任者は、単なる代理人ではなく、本人の「第二の人生」を支える「信頼のパートナー」です。

 

3-1. 受任者に求められる資質

  • 財産管理能力
    金銭の出納を正確に記録し、管理する能力。

  • 判断能力の持続性
    本人より若く、健康であり、長期にわたって任務を遂行できる見込みがあること。

  • 親族との連携能力
    他の親族と良好な関係を築き、トラブルを円滑に収めることができる調整能力。

  • 専門性(特に予備的候補者)
     複雑な財産(不動産、株式、事業承継など)を持つ場合は、予備的候補者に弁護士や司法書士、信託銀行などを検討すべきです。​

 

3-2. 専門家を受任者候補とするメリット
家族を受任者とする場合、家族間での金銭トラブルや感情的な対立のリスクが常につきまといます。専門家を受任者(または予備的候補者)とすることで、以下のメリットが得られます。

  1. 中立性
    家族の利害関係に縛られず、常に本人の最善の利益を追求する。

  2. 専門的な対応
    法的・税務的な観点から、誤りのない財産管理を実現する。

  3. 監督人選任の円滑化
    家庭裁判所も専門家の選任には慣れており、手続きがスムーズに進みやすい。

​​

 

 

4| まとめ~契約の終了を見越した戦略的設計を~

任意後見契約は、「認知症になった時」だけでなく、「その代理人がいなくなった時」という未来の予測不可能な事態まで見越して設計することも実は大切だったりします。

単一の契約書内に予備的受任者を定めても、主たる任意後見人の死亡という民法上の終了事由には対抗できません。契約の終了リスクを本人の判断能力の有無に関わらず回避し、本人の意思を途切れさせないためには、信頼できる複数の候補者と別個の任意後見契約を締結するという形が、最善の道筋であると確信しています。

「安心」は、一度の契約で完結するものではありません。みなさまの未来設計ため、「死後」までを見据えた強固な法的体制の構築をサポートいたします。

ご相談はいつでも承っております。

 

執筆者

行政書士おちあい事務所 行政書士 落合真美

遺言や相続、建設業や産廃業などの許可申請でサポートを提供。人に、会社に、寄り添うことを大切にしています。

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