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こんにちは。行政書士の落合です。

「相続対策」と聞いて、あなたはまず何を思い浮かべるでしょうか? 恐らく、税理士への相談や、法的な効力を持つ遺言書の作成でしょう。確かにこれらは重要ですが、実はその全てに先行する、最も基礎的でありながら、最も多くの方が見落としている作業があります。それが、「現在の資産の全体像を正確に把握すること(資産の棚卸し)」です。

この棚卸しを怠ったために、作成したはずの遺言書が機能せず、遺された家族が泥沼の紛争に巻き込まれるケースもあります。資産の確認は、単なる財産リスト作りではなく、相続対策の成否を分ける「命綱」でもあります。

本コラムでは、なぜ生前の「資産の棚卸し」が相続対策の土台となるのか、そして、財産確認を怠ると将来どれほどのリスクを招くのかについて、具体的な税務・法務の両面から解説します。

最後までお読みいただけると幸いです。みなさまの相続対策の一歩となれば幸いです。

目次

1| 資産確認を怠った場合に生じる「三つの致命的なリスク」
 1-1. 法的紛争リスク:「使途不明金」と「遺産分割のやり直し」
 1-2. 税務リスク:「特例の適用漏れ」と「過少申告加算税」
 1-3. 対策の頓挫リスク:「遺言書の効力停止」

2| 固定資産税から金融資産まで  ~ 確認すべき「資産の構成要素」~
 2-1. 根幹となる「不動産資産」の把握
 2-2. 流動的な「金融資産」の確認
 2-3. 見落とされがちな「デジタル・その他資産」の確認

3| 確実な財産目録作成と専門家の活用
 3-1. 財産目録作成の標準化
 3-2. 行政書士との連携による安心
 3-3. 専門家ネットワークの活用

4| まとめ ~資産の棚卸しは「遺された家族へのおもいやり」~

 

 

 

1| 資産確認を怠った場合に生じる「三つの致命的なリスク」

資産の全体像を把握せずに遺言書や節税対策を進めることは、地図を持たずに航海に出るようなものです。将来、遺された家族に以下の三つの致命的なリスクを負わせることにもなりかねません。

 

1-1. 法的紛争リスク:「使途不明金」と「遺産分割のやり直し」

家族間の争いの多くは、遺産の総額が不明確であることに起因します。

  • 使途不明金の発生
    本人の死亡直前、親族の誰かが預金を引き出していた場合、全財産が把握できていなければ、その引き出しが「使途不明金」として扱われ、引き出した親族が他の相続人から追及を受ける原因ともなりえます。過去の取引履歴を確認し、生前の資金使途を明確にしておくことが不可欠です。

  • 遺産分割のやり直し
    家族が知らない「休眠口座」や「遠隔地の土地持分」が、遺産分割協議が成立した後に発見された場合、遺産分割協議全体をやり直す必要が生じる場合があります。時間と費用が無駄になるだけでなく、一度合意した相続人間に新たな不信感を生み、深刻な関係悪化を招くことも。

 

1-2. 税務リスク:「特例の適用漏れ」と「過少申告加算税」

相続税の申告が必要な場合、資産確認の不備は直接的な金銭的損失に繋がります。

  • 特例の適用漏れ
    相続税を軽減できる「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」などの特例を適用するには、すべての財産と負債を正確に把握し、最適な配分を計算しなければなりません。財産の一部が漏れていては、最適な節税計画が立てられず、不要な税金を支払うことになります。

  • 過少申告加算税
    申告後に未申告の財産が税務署に発見された場合、本来支払うべき税金に加えて、「過少申告加算税」や「延滞税」といったペナルティが課されることもあります。これは、家族の経済的負担を増やし、精神的な苦痛も与えかねません。

 

1-3. 対策の頓挫リスク:「遺言書の効力停止」

遺言書を作成しても、そこに記載された不動産の地番が誤っていたり、既に解約済みの口座を指定したりしていた場合、その条項は執行不能となり、遺言書全体の効力に疑問符がつく可能性があります。「今ある財産」に基づいた正確な遺言書作成のためにも、事前の確認は絶対条件です。

 

 

2| 固定資産税から金融資産まで ~確認すべき「資産の構成要素」~

資産の棚卸しを行う際、単に「自宅」と「銀行預金」だけをリストアップするだけでは不十分です。以下の三つの柱で、網羅的に確認を行う必要があります。

 

2-1. 根幹となる「不動産資産」の把握

不動産は最も価値が高く、かつ名義変更(相続登記)が必須となるため、確認が不可欠です。

  • 固定資産税通知書を「第一の手がかり」とする
    毎年届く固定資産税・都市計画税納税通知書には、その市区町村内で課税されている不動産が一覧で記載されています。これは、所有していることを忘れている土地や、共有名義の持分を見つけ出すための最も有効な手がかりです。

  • 登記簿の確認
    納税通知書で確認した後、法務局で登記簿謄本を取得し、所在地、地積(面積)、正確な名義(単独所有か共有か)を照合します。

  • 評価額の理解
    通知書の「固定資産税評価額」は、相続税の計算で用いる「相続税評価額」とは異なります。相続税対策には、路線価や倍率方式による相続税評価額の試算が必要となります。

 

2-2. 流動的な「金融資産」の確認

預貯金や有価証券は、流動的であるため、死亡時の残高確定が難しく、争いの原因となりやすい分野です。

  • 全口座の特定
    過去に使用したことのある銀行、信用金庫、郵便局(ゆうちょ銀行)など、全ての金融機関について、通帳やキャッシュカードから口座の有無を確認します。

  • 証券・投資信託
    ネット証券を含め、保有している証券会社の口座、投資信託、株式などの残高報告書を収集します。

  • 生命保険と損害保険
    「誰が受取人か」を記した証券をすべて確認します。保険金は原則として遺産分割の対象外ですが、納税資金の確保として極めて重要です

 

2-3. 見落とされがちな「デジタル・その他資産」の確認

高齢化とともに重要性が増しているのが、これらの見えにくい資産です。

  • デジタル資産
    仮想通貨、FX口座、SNSアカウント、有料サブスクリプションサービスなど。パスワード一覧を残しておかないと、誰も解約・換金できずに放置されてしまいます。

  • 債務(負の資産)
    借入金、住宅ローン残高、未払いの医療費など、負債も財産目録に含め、差し引きで正味の遺産額を確定させなければなりません。

 

3| 確実な財産目録作成と専門家の活用

資産の棚卸しは、行政書士などの専門家と連携して行うことで、その確実性が飛躍的に向上します。

 

3-1. 財産目録作成の標準化

全資産を以下の項目に分類し、評価額の計算を容易にする形式で一覧化します。

 

資産の分類 記載すべき情報(例) 評価額(メモ)
不動産 所在地、地番、登記名義人、持分、固定資産税評価額 相続税評価額の試算
預貯金 銀行名、支店名、口座番号、最終残高 死亡時の残高証明書取得が必要
有価証券 銘柄名、証券会社名、数量 死亡時の終値で評価
生命保険 保険会社名、証券番号、受取人名 解約返戻金、または死亡保険金額
債務 借入先、残高、契約書

控除対象の負債として計上

3-2. 行政書士との連携による安心

行政書士は、この財産目録作成のプロセスをサポートします。

  1. 資料収集の指示
    必要な書類(戸籍、固定資産税通知書、通帳など)を漏れなく収集するサポート。

  2. 名義整理の助言
    登記簿と課税台帳の名義不一致や、放置されている休眠口座の洗い出しを支援。

  3. 相続対策の「設計図」作成
    完成した財産目録を基に、遺言書作成や任意後見契約など、次の一歩に進むための最適な「対策の設計図」を提示します。

 

3-3. 専門家ネットワークの活用

 

行政書士は、相続税試算が必要な場合には税理士へ、不動産の境界画定や登記が必要な場合は土地家屋調査士司法書士へ、スムーズに連携する窓口となります。資産の棚卸しから税務申告、法的な手続きまで、ワンストップで安心できる体制を構築できます。

 

 

4| まとめ ~資産の棚卸しは「遺された家族へのおもいやり」~

資産の棚卸しは、決して遺言書や節税テクニックといった「華やかな対策」から始めるべきではありません。それは、まず「自分が持っているものを知る」という、地道で、しかし最も確実な作業から始まります。
この生前の作業は、将来、遺された家族が「何もないところから」膨大な手続きで苦労するのを防ぐ、最大の「おもいやり」の行為です。この大切な第一歩を踏み出すことで、真に円満で安心できる相続を実現することができるのです。

今こそ、ご自身の資産と向き合い、未来の安心を確かなものにしましょう。

執筆者

行政書士おちあい事務所 
行政書士 落合真美

遺言、任意後見、死後事務委任などの生前対策や相続手続き、各種許可申請などでサポートを提供。人に、事業に、寄り添うことを大切にしています。

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